私が思うに、猪肉は焼くよりも煮る方が良い。煮るとなると、臭みを消すために味噌、酒、生姜等を用いることが多く、それに加えて醤油、味醂などを入れて味をつければ、まず失敗せずに猪肉を調理できる。
ところで、猪肉を用いた料理としては、牡丹鍋の方が知名度として上であろう。牡丹”鍋”と牡丹”汁”は材料に違いがあるわけではなく、調理の進行方法に差異がある。鍋というのは、家庭でやる場合と料理店では異なるかも知れないが、食卓の上に設置された鍋に次々と材料を投入しながら、煮えた頃合いを見計らって取り出し食べる、というイメージが強い。この方法で行う牡丹鍋の利点は、肉を最適なタイミングで取り出すことができる、ということだ。猪肉は完全に火を通して食べるべきだが、煮すぎてしまっては肉本体に味が残らない。よって、猪肉を肉として堪能するためには、目の前で少しずつ煮ながら良い具合になったところで取り出しすぐ食べる、というのが合理的である。また、鍋の場合は生の状態の材料が食卓に置かれるので、牡丹の名の由来となった綺麗な赤色の肉質と白い脂肪の対比を目で見て楽しむということもできる。
しかしながら、材料を次々に入れて次々に食べる、という鍋方式には欠点もある。それは灰汁の取り出しが難しいということである。猪肉を煮ると灰汁が大量に出るので、一緒に煮ている野菜などもおいしく食べるためには灰汁の丁寧な除去が欠かせない。これを怠ると、最初のうちはよいが、後半になるにつれて汁が濁り酷い状態になってしまうのだ。連続した調理を前提としない牡丹汁では、この欠点が解消される。まず肉を茹でて、灰汁を完全に除去してから野菜と調味料を投入すればよい。火の通り具合をきちんと調節したければ、肉と野菜を別々に煮る。
私が作る牡丹汁の材料は猪肉の他に、大根、ネギ、油揚、竹輪、椎茸、蒟蒻などである。およそ和風の煮物に用いられる材料であれば何でも構わないと思う。調味料は、酒、味醂、味噌、醤油、生姜である。味噌は普通の混合味噌だが、甘めが好きなら麦味噌も良い。