さくごほかくぽん

ホンドタヌキ 有害捕獲のため設置していた罠にタヌキがかかっていると連絡を受け向かったところ、確かにホンドタヌキ (Nyctereutes procyonoides viverrinus)が罠にかかっていた。

 現場は鳥獣保護区であるが、農業被害軽減のためニホンジカ捕獲の許可が降りており、計4つの足括り罠を設置していた。ホンドタヌキは狩猟鳥獣ではあるものの、私が受けている許可において有害捕獲の対象ではないため、この場合は錯誤捕獲となる。

 罠猟における錯誤捕獲とは、猟期であれば非狩猟鳥獣 (ニホンザル、カモシカ等)、および罠で捕獲することが許可されていない狩猟鳥獣 (ツキノワグマ、ヒグマ、鳥類全般)、有害捕獲では指定された種以外の鳥獣、を捕獲してしまうことを言う。

 錯誤捕獲は動物愛護や環境保全の観点から問題であり、狩猟者からしても放獣の手間や罠の破損を考えると避けたいものである。この点について、中には罠猟そのものを否定する声や、使用できる罠の制限をより厳しくすることを求める向きもあるが、これまでにも行政により幾つかの対策が講じられている。トラバサミは錯誤捕獲が生じ易くまた捕獲時に鳥獣に与えるダメージが大きいとして法改正により使用が禁止されている。足括り罠における輪の直径が12cm以下と定められたのもクマ類の錯誤捕獲を防止する目的である。また足括り罠で締め付け防止金具の装着が必須となっているのは、イエイヌ等の非狩猟鳥獣がかかったときに放獣を容易にし傷を軽減する目的がある。しかしながら、やはり錯誤捕獲を完全に避けることは困難である。足括り罠を使う以上、輪の直径を12cm以下にしても子熊ならかかるだろうし、カモシカを避けてニホンジカだけを捕獲するなど無理である。ましてや今回のようにタヌキやアナグマの棲息が見込まれる区域でニホンジカだけを選択的に捕獲するというのは不可能だ。勿論、溜糞や巣穴等、明らかに対象外の獣が頻繁に利用する獣道であることを示すサインがあれば、その付近に罠を設置することは避けたいと思うが、現行の法制度下、また有害鳥獣捕獲計画下では、ある程度の錯誤捕獲が発生してしまうということは仕方ない。

罠にかかったホンドタヌキ 今回、ホンドタヌキがかかってしまった罠は、捩りばねを使用した足括り罠で、輪の直径は12cm、ワイヤーは直径4mm、よりもどし及び締め付け防止金具を装着しており、ニホンジカを対象としたものとして適法な罠である。写真では分かりにくいがワイヤーは左前足の先端にかかっていた。もう1人の従事者が布と棒を用いて押さえつけている間に、私がワイヤーを緩めて外し放獣した。罠による怪我は比較的軽度で、解き放たれたタヌキは一目散に逃げて行った。

 「ホンドタヌキ」で画像検索すると、可愛らしい表情の写真ばかり出てくるが、冒頭の写真で分かる通り、罠にかかったタヌキは恐ろしい顔をしていた。まぁ罠にかけてしまったこちらの責任なのだが、私の中でタヌキに対するイメージが随分と変わってしまった。