たんけいけいそく

以前に、じゅうにせんち – 狩場の馬鹿力という記事で、くくりわなの直径は、一般的に短径が12cm以下であれば良いと解釈されている、ということを書いた。

これに関連し、日猟会報47号(令和3年9月)に掲載された内容に対する私の意見を書く。

「(鳥獣保護管理の)基本的な指針の見直し等に関する佐々木会長の意見」と題する5頁には以下のように記されている。
4. くくりわなによる人身事故増加等への措置
 近年「くくりわな」にクマ類などが錯誤捕獲される例が多発。また、大型獣をわなからはずすことは極めて危険で安易な放獣は避けるべき
 このため、くくりわなの「直径12cm以下」という基準の厳格な順守が必要。また、錯誤捕獲された大型獣には、現場の状況に応じた適切で速やかな対処が必要
※「くくりわな」の直径の計測方法
 くくりわなの輪の直径は12cm以内とされているが、その計測方法は「短径」とされ、長径が20cm超の弁当箱型(楕円形)のわなが多く設置。本来の趣旨に基づき、早急に最大径12cm以内とすべき
(図は省略)

この佐々木会長の意見に対して、私は基本的に反対である。

理由は大きく分けると3つある。

1. 最大径を12cm以下にすればクマ類の錯誤捕獲が十分に減る、という根拠はない
佐々木会長の意見としては、「クマ類などが錯誤捕獲される例が多発。(中略)このため、くくりわなの「直径12cm以下」という基準の厳格な順守が必要。」ということだが、クマ類の錯誤捕獲が、最大径12cm超 (短径は12cm以内)のくくりわなで多いのか少ないのか、あるいは錯誤捕獲されたのが成獣なのか幼獣なのか、ということに関するデータは全く示されていない。
例えば、そもそも短径が12cm超のくくりわな (違反猟法、あるいは規制緩和地域では使用可)で錯誤捕獲が多い、ということであれば、短径12cm以下を遵守し、クマ類の錯誤捕獲が生じる可能性がある地域では規制緩和するのを止めよう、という対策で十分なはずである。
あるいは、くくりわなで錯誤捕獲されるクマ類の多くは幼獣である、ということが分かっているのであれば、最大径を12cm以内にしたところで、クマ類の錯誤捕獲は多少減ることは予想されるものの、劇的に減るとは考えにくい。
クマ類の錯誤捕獲を減らす目的で、輪の最大径を12cm以下にするべきだと主張するのであれば、少なくとも3つのカテゴリ、「短径12cm超のもの」「最大径12cm超かつ短径12cm以下のもの」「最大径12cm以下のもの」で、クマの錯誤捕獲率が異なり、「最大径12cm以下のもの」のみが鳥獣保護管理上、問題無い範囲の錯誤捕獲率に収まっている、ということを示す必要があると考えられる。これを示すためには、クマ類の生息が確認されている地域において、上記3つのカテゴリに該当するくくり罠が、どういった割合で設置されており、錯誤捕獲が実際に生じたくくりわながどのカテゴリに該当するか、を記録する必要があるが、そのような検証は困難であろう。
確かに、最大径12cm超かつ短径12cm以下のくくりわなが使用される割合は増えている印象であるが、クマ類の生息数も増えていると考えられる地域が有り、くくりわなでのクマ類の錯誤捕獲が以前より多発しているとしても、単にクマ類の生息密度が上がったり、罠設置場所付近 (多くの場合、人里に近い場所)での活動が増えたためである可能性も考えられる。
もちろん、クマ類が増えて錯誤捕獲の危険性が高まったから、輪の直径に関する規制を強化しよう、というのはおかしな話ではないが、それで「最大径12cm超かつ短径12cm以下のくくりわな」だけを問題にするのは、思考が単純すぎると思うのである。
日猟会報47号の同頁では、「科学的な調査に基づく鉛弾規制」を求めており、要するに政府が検討している鉛弾規制に反対の立場を示しているわけであるが、科学的な調査に基づかない、くくりわなの直径規制を提言しているのは、矛盾しているのではないかと私は感じる。

2. 最大径12cm以下に規制されると、罠(部品)の買い替えが必要になる
くくりわなには、パーツ (特に踏み板・落とし等と呼ばれる部分)の形状・大きさによって設置した際の輪の径が決まるものと、パーツに依存せず設置時に比較的自由に径を調整できるものがある。
パーツによって輪の径が決まるタイプでは、最大径12cm以下に規制が改められた場合、パーツを買い換える必要が生じるわけだが、現在販売されている罠で該当するパーツの価格を調べてみると、安いもので1,500円ほど、高いものでは5,000円を超える。3,000円のものを20個所持していた場合では、60,000円分のパーツが使用不能となるのである。
一方、パーツに依存せず設置時に径を調整できる罠は、規制が強化されてもそのまま使用することは可能であるが、このような罠 (私の使用している”だらずわな”も該当する)では、ワイヤーの輪を円にすることが困難な場合があり、その場合、最大径を12cm以下にしようとすると、短径はさらに小さくなってしまう。そうなると、本来の目的であるシカ・イノシシの捕獲に不利となるので、罠全体の買い替えを検討する必要が生じるかも知れない。その場合、パーツのみの買い替えで済む場合に比べ、より多額の費用が必要になると予想される。
最近は獣害対策のため、行政がくくりわなを購入し、有害鳥獣捕獲の従事者に配布しているケースも多く、買い替えが生じれば税金からそれだけの出費が発生することも考えられる。
最大径12cm以下に規制されれば、罠を販売している業者は一時的に儲かるだろうが、狩猟者・捕獲事業者・行政にかかる金銭的負担は無視できない。

3. 最大径12cm以下に規制されると、シカ・イノシシの捕獲効率は落ちると考えられる
冒頭で挙げた別記事でも書いたように、私は最大径が12cm以下の罠も使用しており、それを使って大型のシカやイノシシも捕獲した経験があるので、最大径12cm以下の罠ではシカ・イノシシが捕獲困難である、と言うつもりは無い。
しかしながら、踏んだ時に作動する面積が小さくなれば、それだけ捕獲の可能性が下がることは予想できる (これは当然、クマ類の錯誤捕獲も多少は減ると予想されるのと同様)。
加えて、シカ・イノシシをくくりわなで捕獲する際には、ワイヤーが足のどの位置 (足の先端からの高さ)を括るか、が重要になるのであるが、佐々木会長の意見でも言及されている、弁当箱型(楕円形)というのは、踏んだ時に作動する面積の増大と同時に、括り位置を高くするための工夫でもある場合が多い。笠松式と呼ばれる罠の場合、同じ機構のまま踏み板を弁当箱型(楕円形)から真円にすると、括り位置も下がってしまい、いわゆる空ハジキの確率が高まって捕獲効率が落ちると予想されるのである。

結局のところ、最大径12cm超のくくりわなを使用禁止にした方が、デメリットよりもメリットが大きいと判断されれば、規制強化もやむ無しなのであるが、上記の理由で、私は最大径を12cm以下とする規制は、デメリットが大きいと予想され、メリットの方は限定的であろうと考えている。

全国の猟友会支部を束ねる大日本猟友会の会長が、私からすると安直に思えるこうした提言をしたというのは、シカ・イノシシによる被害が大きく、罠が盛んに使われている地域の実情を把握していないのか、あるいは罠での捕獲を減らして銃猟での捕獲をしやすくしようとしているのでは、と疑ってしまう。

とはいえ、ただただ文句を書いても仕方がないので、くくりわなの輪の大きさに関する規制を強化しなければならない、という前提に立った場合の譲歩案について考えてみた。

例えば、使用できる輪の径に関する基準を、「最大径12cm以下、あるいは短径10cm以下」などとするのはどうだろうか。極端に細長い形状を規制したければ、「最大径12cm以下、あるいは短径10cm以下かつ最大径20cm以下」などとしても良い。これなら、「最大径12cm以下」とだけ規定するよりは、罠の設計に自由度が生まれ、クマ類の錯誤捕獲を減らした上で、シカ・イノシシの捕獲効率をより高い水準に保てる可能性がある。無論、「短径12cm以下かつ最大径○○cm以下」の規制で済めば、そちらのほうが良いだろう。

ぽんぽこさくご

くくり罠で錯誤捕獲されたホンドタヌキ1609110216091103有害捕獲のため設置していたくくり罠で、2016/09/11にホンドタヌキが掛かっていた。

2年程前にも別の場所でタヌキが掛かったことがあったが (参照: さくごほかくぽん – 狩場の馬鹿力)、今回も錯誤捕獲となる。

前回は2人がかりでワイヤーを脚から外し、タヌキを逃がしたが、今回は1人で行ったので、その模様を紹介したいと思う。

今回、タヌキが掛かったのは、押バネを使うタイプのくくり罠だったので、とりあえず輪とは反対側の留具を開放した。しかし、くくり金具がきちんと機能しており、それだけでワイヤーの輪は緩まず、タヌキも逃げることはできない。

そこで、バイクに積んであった古いレインウェア(下)を使うことにした。既に何箇所か穴が開いていて、防寒ぐらいにしか役立たなくなっている。これをタヌキの頭に被せて大人しくさせる作戦である。

そこら辺に落ちていた木の枝を使って上手いことレインウェアをタヌキの頭に被せてやると、それまで唸ったり噛み付いてきたり (芯入りの安全長靴なので被害なし)していたタヌキが、驚くほど無抵抗になった。そこで、片足で肩の辺りを軽く押さえつけながら、ペンチを使って左前脚に掛かっていたワイヤーを緩め、脚から外した。レインウェアを被せた後は、全く暴れることが無く、スムーズに外すことが出来た。

しかも、ワイヤーを外して押さえつけていた足をどけたら、すぐに勢い良く逃げていくかと思いきや、タヌキはしばらく動かず、被さっていたレインウェアを棒でよけたら、しばらくしてやっと逃げていく、という悠長さだった。布で頭を覆って目隠しするのは相当に有効なようである。

こうして、タヌキにほぼ触ること無く (レインウェア越しに軽く踏んだだけ)、タヌキを開放することが出来た。猟期中であったとしても、私にとってタヌキは狩猟対象でないので、今後もタヌキを開放させる必要は生じてくるだろうが、今回の手順で行っていこうと思う。

↑罠にかかったホンドタヌキ

↑ワイヤーを外したのに気づかず、寝転ぶホンドタヌキ

じゅうにせんち

括り罠における12cm規制について書きたいと思う。

現在、くくりわな (このblogでは”足括り罠”、”くくり罠”、”括り罠”等の表記が混在しているが、法令では”くくりわな”が用いられる)の輪の直径は12cm以下と定められている。これは、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則」の第十条 3の九で、

イノシシ(スス・スクロファ)及びニホンジカ(ケルヴス・ニポン)の捕獲等をするため、くくりわな(輪の直径が十二センチメートルを超えるもの、締付け防止金具が装着されていないもの、よりもどしが装着されていないもの又はワイヤーの直径が四ミリメートル未満であるものに限る。)、おし又はとらばさみを使用する方法

が「環境大臣が禁止する猟法」に挙げられてことに基づく。ここでは明記されていないが、一般的には輪の短径が12cm以下であれば良い、と解釈されている。

参照:
網猟・わな猟をされる方へ – 愛知県
狩猟者の責務及び尊守事項 – 奈良県

この規制は主に、クマ類の錯誤捕獲を防止する目的で制定されており、クマの成獣であれば、直径12cm以下の輪に脚が入らず、捕獲される可能性が低いため、ということになっている。

しかしながら、くくりわなによる捕獲の主な対象であるイノシシ及びシカが生息している地域であっても、クマ類が生息していないと考えられる地域もあり (主に九州)、そのような場所では、クマ類の錯誤捕獲を防止するために12cmを守る必要性は低い。また、近年のイノシシ・シカによる獣害被害の増加を鑑みて、12cm規制を緩和することがイノシシ・シカの捕獲数増加に寄与すると判断し、クマ類が生息するエリアであっても12cm規制の緩和あるいは撤廃 (時期を限定したものも含む)を行っている地方自治体も存在する。

参照:
動物分布図(哺乳類) (環境省)

この12cm規制は平成19年4月に施行されているため、私の場合はわな猟免許を取得した時点で既にあった規制であるが、この規制が無かった時代に罠猟を行っていた狩猟者も数多くいるわけで、現在もこの規制に準拠した罠の設置方法をしていない狩猟者が存在する。12cm規制に不満を持つ罠猟師の中には、直径12cm以下の輪では捕獲数が著しく減少すると主張する人もおり、地方自治体による12cm規制の緩和を促す要因となっている。

私は12cm規制に完全に準拠しているが、イノシシとシカの捕獲を行えているので、「12cm以下の輪でイノシシが捕れるわけない」といった主張は誤りである (100kg級のイノシシも直径12cmの”円形”罠で捕獲している)。しかしながら、輪の径が小さくなれば、輪の中を動物が踏む確率が低くなるのは必然なので、輪のサイズを小さくすることが捕獲の可能性を下げるのは否めない。

12cm規制を守らない狩猟者が少なくない要因として、12cm規制を守っていなくても、処罰を受ける可能性が非常に低いという現状がある。くくりわなは地中に設置されるので、設置場所を設置者以外が網羅的に発見することが (標識があるとはいえ)難しい上に、設置後に罠の状態を変えず輪の直径を確認するのは困難である。第三者が罠の状態を設置者の許可無く変更するということは、狩猟に対する妨害であり、自由に行って良い行為ではない (罠を作動させてしまう可能性もあり危険も伴う)。つまり、設置された罠が12cm規制に準拠しているかどうか確かめることはまず出来ないのである。

よって、12cmを超えた違法な罠によって実際にクマ類が錯誤捕獲され、警察や行政が介入するという事態になり、さらにその罠が短径12cm以下で設置できないことが明白である、というケースでないと、12cm規制の違反で処罰を受けることは考えにくい。狩猟という行為の特性上、12cm規制に限らずチェック機構が働きにくいルールは他にも多々あるのであるが、とにかく上記のような理由で、12cm規制については狩猟者が遵法精神を持っているかどうかに依存しているのである。