むりのないぺーす

2021年9月25日に鹿♂1頭の捕獲があった (写真上2枚、有害鳥獣捕獲)。罠は”しまるくんL”で、ワイヤーは左前脚の主蹄と副蹄の間に掛かっていた。

2021年10月6日に鹿♂1頭の捕獲があった (写真上から3枚目、有害鳥獣捕獲)。罠は製品名不明の笠松式で、ワイヤーは右前脚に掛かっていた (位置は未記録)。

2021年11月13日にも鹿♂1頭の捕獲があった (写真下1枚)。檻による捕獲である。

私の場合、冬の猟期中は週に1頭程度の捕獲を目標としているが、猟期外は2〜3週間に1頭位がちょうどいい。これ以上捕れると、釣りなど他の活動に充てる時間が無くなるし、場合によっては仕事にも影響が出てしまう。

たんけいけいそく

以前に、じゅうにせんち – 狩場の馬鹿力という記事で、くくりわなの直径は、一般的に短径が12cm以下であれば良いと解釈されている、ということを書いた。

これに関連し、日猟会報47号(令和3年9月)に掲載された内容に対する私の意見を書く。

「(鳥獣保護管理の)基本的な指針の見直し等に関する佐々木会長の意見」と題する5頁には以下のように記されている。
4. くくりわなによる人身事故増加等への措置
 近年「くくりわな」にクマ類などが錯誤捕獲される例が多発。また、大型獣をわなからはずすことは極めて危険で安易な放獣は避けるべき
 このため、くくりわなの「直径12cm以下」という基準の厳格な順守が必要。また、錯誤捕獲された大型獣には、現場の状況に応じた適切で速やかな対処が必要
※「くくりわな」の直径の計測方法
 くくりわなの輪の直径は12cm以内とされているが、その計測方法は「短径」とされ、長径が20cm超の弁当箱型(楕円形)のわなが多く設置。本来の趣旨に基づき、早急に最大径12cm以内とすべき
(図は省略)

この佐々木会長の意見に対して、私は基本的に反対である。

理由は大きく分けると3つある。

1. 最大径を12cm以下にすればクマ類の錯誤捕獲が十分に減る、という根拠はない
佐々木会長の意見としては、「クマ類などが錯誤捕獲される例が多発。(中略)このため、くくりわなの「直径12cm以下」という基準の厳格な順守が必要。」ということだが、クマ類の錯誤捕獲が、最大径12cm超 (短径は12cm以内)のくくりわなで多いのか少ないのか、あるいは錯誤捕獲されたのが成獣なのか幼獣なのか、ということに関するデータは全く示されていない。
例えば、そもそも短径が12cm超のくくりわな (違反猟法、あるいは規制緩和地域では使用可)で錯誤捕獲が多い、ということであれば、短径12cm以下を遵守し、クマ類の錯誤捕獲が生じる可能性がある地域では規制緩和するのを止めよう、という対策で十分なはずである。
あるいは、くくりわなで錯誤捕獲されるクマ類の多くは幼獣である、ということが分かっているのであれば、最大径を12cm以内にしたところで、クマ類の錯誤捕獲は多少減ることは予想されるものの、劇的に減るとは考えにくい。
クマ類の錯誤捕獲を減らす目的で、輪の最大径を12cm以下にするべきだと主張するのであれば、少なくとも3つのカテゴリ、「短径12cm超のもの」「最大径12cm超かつ短径12cm以下のもの」「最大径12cm以下のもの」で、クマの錯誤捕獲率が異なり、「最大径12cm以下のもの」のみが鳥獣保護管理上、問題無い範囲の錯誤捕獲率に収まっている、ということを示す必要があると考えられる。これを示すためには、クマ類の生息が確認されている地域において、上記3つのカテゴリに該当するくくり罠が、どういった割合で設置されており、錯誤捕獲が実際に生じたくくりわながどのカテゴリに該当するか、を記録する必要があるが、そのような検証は困難であろう。
確かに、最大径12cm超かつ短径12cm以下のくくりわなが使用される割合は増えている印象であるが、クマ類の生息数も増えていると考えられる地域が有り、くくりわなでのクマ類の錯誤捕獲が以前より多発しているとしても、単にクマ類の生息密度が上がったり、罠設置場所付近 (多くの場合、人里に近い場所)での活動が増えたためである可能性も考えられる。
もちろん、クマ類が増えて錯誤捕獲の危険性が高まったから、輪の直径に関する規制を強化しよう、というのはおかしな話ではないが、それで「最大径12cm超かつ短径12cm以下のくくりわな」だけを問題にするのは、思考が単純すぎると思うのである。
日猟会報47号の同頁では、「科学的な調査に基づく鉛弾規制」を求めており、要するに政府が検討している鉛弾規制に反対の立場を示しているわけであるが、科学的な調査に基づかない、くくりわなの直径規制を提言しているのは、矛盾しているのではないかと私は感じる。

2. 最大径12cm以下に規制されると、罠(部品)の買い替えが必要になる
くくりわなには、パーツ (特に踏み板・落とし等と呼ばれる部分)の形状・大きさによって設置した際の輪の径が決まるものと、パーツに依存せず設置時に比較的自由に径を調整できるものがある。
パーツによって輪の径が決まるタイプでは、最大径12cm以下に規制が改められた場合、パーツを買い換える必要が生じるわけだが、現在販売されている罠で該当するパーツの価格を調べてみると、安いもので1,500円ほど、高いものでは5,000円を超える。3,000円のものを20個所持していた場合では、60,000円分のパーツが使用不能となるのである。
一方、パーツに依存せず設置時に径を調整できる罠は、規制が強化されてもそのまま使用することは可能であるが、このような罠 (私の使用している”だらずわな”も該当する)では、ワイヤーの輪を円にすることが困難な場合があり、その場合、最大径を12cm以下にしようとすると、短径はさらに小さくなってしまう。そうなると、本来の目的であるシカ・イノシシの捕獲に不利となるので、罠全体の買い替えを検討する必要が生じるかも知れない。その場合、パーツのみの買い替えで済む場合に比べ、より多額の費用が必要になると予想される。
最近は獣害対策のため、行政がくくりわなを購入し、有害鳥獣捕獲の従事者に配布しているケースも多く、買い替えが生じれば税金からそれだけの出費が発生することも考えられる。
最大径12cm以下に規制されれば、罠を販売している業者は一時的に儲かるだろうが、狩猟者・捕獲事業者・行政にかかる金銭的負担は無視できない。

3. 最大径12cm以下に規制されると、シカ・イノシシの捕獲効率は落ちると考えられる
冒頭で挙げた別記事でも書いたように、私は最大径が12cm以下の罠も使用しており、それを使って大型のシカやイノシシも捕獲した経験があるので、最大径12cm以下の罠ではシカ・イノシシが捕獲困難である、と言うつもりは無い。
しかしながら、踏んだ時に作動する面積が小さくなれば、それだけ捕獲の可能性が下がることは予想できる (これは当然、クマ類の錯誤捕獲も多少は減ると予想されるのと同様)。
加えて、シカ・イノシシをくくりわなで捕獲する際には、ワイヤーが足のどの位置 (足の先端からの高さ)を括るか、が重要になるのであるが、佐々木会長の意見でも言及されている、弁当箱型(楕円形)というのは、踏んだ時に作動する面積の増大と同時に、括り位置を高くするための工夫でもある場合が多い。笠松式と呼ばれる罠の場合、同じ機構のまま踏み板を弁当箱型(楕円形)から真円にすると、括り位置も下がってしまい、いわゆる空ハジキの確率が高まって捕獲効率が落ちると予想されるのである。

結局のところ、最大径12cm超のくくりわなを使用禁止にした方が、デメリットよりもメリットが大きいと判断されれば、規制強化もやむ無しなのであるが、上記の理由で、私は最大径を12cm以下とする規制は、デメリットが大きいと予想され、メリットの方は限定的であろうと考えている。

全国の猟友会支部を束ねる大日本猟友会の会長が、私からすると安直に思えるこうした提言をしたというのは、シカ・イノシシによる被害が大きく、罠が盛んに使われている地域の実情を把握していないのか、あるいは罠での捕獲を減らして銃猟での捕獲をしやすくしようとしているのでは、と疑ってしまう。

とはいえ、ただただ文句を書いても仕方がないので、くくりわなの輪の大きさに関する規制を強化しなければならない、という前提に立った場合の譲歩案について考えてみた。

例えば、使用できる輪の径に関する基準を、「最大径12cm以下、あるいは短径10cm以下」などとするのはどうだろうか。極端に細長い形状を規制したければ、「最大径12cm以下、あるいは短径10cm以下かつ最大径20cm以下」などとしても良い。これなら、「最大径12cm以下」とだけ規定するよりは、罠の設計に自由度が生まれ、クマ類の錯誤捕獲を減らした上で、シカ・イノシシの捕獲効率をより高い水準に保てる可能性がある。無論、「短径12cm以下かつ最大径○○cm以下」の規制で済めば、そちらのほうが良いだろう。

たねをまいておく

2021年7月14日に鹿♀1頭の捕獲があった (写真上2枚、有害鳥獣捕獲)。罠は製品名不明の笠松式で、ワイヤーは左前脚の副蹄より上に掛かっていた。

ワイヤーが小径木に巻き付いた状態で発見されたが、外傷は少なくきれいな状態で捕獲することができた。

2021年7月17日には鹿♀1頭の捕獲があった (写真中央2枚、有害鳥獣捕獲)。罠は”しまるくん”で、ワイヤーは右前脚の主蹄と副蹄の間に掛かっていた。

2021年7月30日にも鹿♀1頭 (幼獣)の捕獲があった (写真下2枚、有害鳥獣捕獲)。こちらは箱罠による捕獲となる。

少し前から、檻や括り罠で使う餌としてエンバクを試しており、この個体は私にとって初めての成功例である。檻の中と周辺に、エンバクの種を撒いておくと、あとは勝手に発芽して成長し、鹿を誘引してくれる。利点としては、植物として生きている間は腐らないので、餌を交換する手間が減るということが大きい。欠点としては、寒い時期には (おそらく)発芽しないので、一度食べられてしまうと冬の間は追加できないということと、使用する場所の環境条件 (土壌や日射・降水量など)が、エンバクの生育条件を満たしている必要がある、等が考えられる。エンバクは外来種ではあるが、既に食用・飼料用として国内で多く栽培されていること、実施場所の周辺では下層にある鹿の嗜好性植物がほぼ食べつくされていること、を考えると、生態系に与える影響は極軽微であると考えている。