じゅうにせんち

括り罠における12cm規制について書きたいと思う。

現在、くくりわな (このblogでは”足括り罠”、”くくり罠”、”括り罠”等の表記が混在しているが、法令では”くくりわな”が用いられる)の輪の直径は12cm以下と定められている。これは、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則」の第十条 3の九で、

イノシシ(スス・スクロファ)及びニホンジカ(ケルヴス・ニポン)の捕獲等をするため、くくりわな(輪の直径が十二センチメートルを超えるもの、締付け防止金具が装着されていないもの、よりもどしが装着されていないもの又はワイヤーの直径が四ミリメートル未満であるものに限る。)、おし又はとらばさみを使用する方法

が「環境大臣が禁止する猟法」に挙げられてことに基づく。ここでは明記されていないが、一般的には輪の短径が12cm以下であれば良い、と解釈されている。

参照:
網猟・わな猟をされる方へ – 愛知県
狩猟者の責務及び尊守事項 – 奈良県

この規制は主に、クマ類の錯誤捕獲を防止する目的で制定されており、クマの成獣であれば、直径12cm以下の輪に脚が入らず、捕獲される可能性が低いため、ということになっている。

しかしながら、くくりわなによる捕獲の主な対象であるイノシシ及びシカが生息している地域であっても、クマ類が生息していないと考えられる地域もあり (主に九州)、そのような場所では、クマ類の錯誤捕獲を防止するために12cmを守る必要性は低い。また、近年のイノシシ・シカによる獣害被害の増加を鑑みて、12cm規制を緩和することがイノシシ・シカの捕獲数増加に寄与すると判断し、クマ類が生息するエリアであっても12cm規制の緩和あるいは撤廃 (時期を限定したものも含む)を行っている地方自治体も存在する。

参照:
動物分布図(哺乳類) (環境省)

この12cm規制は平成19年4月に施行されているため、私の場合はわな猟免許を取得した時点で既にあった規制であるが、この規制が無かった時代に罠猟を行っていた狩猟者も数多くいるわけで、現在もこの規制に準拠した罠の設置方法をしていない狩猟者が存在する。12cm規制に不満を持つ罠猟師の中には、直径12cm以下の輪では捕獲数が著しく減少すると主張する人もおり、地方自治体による12cm規制の緩和を促す要因となっている。

私は12cm規制に完全に準拠しているが、イノシシとシカの捕獲を行えているので、「12cm以下の輪でイノシシが捕れるわけない」といった主張は誤りである (100kg級のイノシシも直径12cmの”円形”罠で捕獲している)。しかしながら、輪の径が小さくなれば、輪の中を動物が踏む確率が低くなるのは必然なので、輪のサイズを小さくすることが捕獲の可能性を下げるのは否めない。

12cm規制を守らない狩猟者が少なくない要因として、12cm規制を守っていなくても、処罰を受ける可能性が非常に低いという現状がある。くくりわなは地中に設置されるので、設置場所を設置者以外が網羅的に発見することが (標識があるとはいえ)難しい上に、設置後に罠の状態を変えず輪の直径を確認するのは困難である。第三者が罠の状態を設置者の許可無く変更するということは、狩猟に対する妨害であり、自由に行って良い行為ではない (罠を作動させてしまう可能性もあり危険も伴う)。つまり、設置された罠が12cm規制に準拠しているかどうか確かめることはまず出来ないのである。

よって、12cmを超えた違法な罠によって実際にクマ類が錯誤捕獲され、警察や行政が介入するという事態になり、さらにその罠が短径12cm以下で設置できないことが明白である、というケースでないと、12cm規制の違反で処罰を受けることは考えにくい。狩猟という行為の特性上、12cm規制に限らずチェック機構が働きにくいルールは他にも多々あるのであるが、とにかく上記のような理由で、12cm規制については狩猟者が遵法精神を持っているかどうかに依存しているのである。

ことしのきろく

2015年度の猟期が延長も含めて終わったので、集計を行った。

設置日数: 93日 (昨年度 110)
捕獲数: 8頭 (シカ 6, イノシシ 2) (昨年度 9)
罠・日: 638 (昨年度 895)
空ハジキ: 7 (昨年度 不明)

効率: 0.0125 頭/罠・日 (昨年度 0.0089)

昨年度と比較して、捕獲数は1減ったが、設置日数と罠・日が大分少なかったので、効率は上昇している。

お金の計算では、

[支出]

○狩猟者登録
狩猟税: 4100円 (有害捕獲従事による減額)
手数料: 1800円

○猟友会+保険など
支部猟友会会費: 4000円
京都府猟友会会費: 4000円
大日本猟友会会費: 1500円
任意保険費: 約4000円

○燃料・用具
燃料代: 約10000円
罠パーツ: 約4000円
リヤカー: 約30000円

[収入]

有害駆除協力金: 20000円
シカ捕獲奨励金: 8000円

ざっとこんな感じで、リヤカー分を除けばそれなりにシカの補助金で賄えている。もちろん時間は相当使っているが、それほど金のかかる活動ではない。

今年は新たな罠を買わずにリヤカーを買ったが、来年度は中型動物用の檻罠を2つほど購入できたら楽しみが広がって良さそうだ。

たべたことない

モダンメディアという学術情報誌の2015年6月号で、「食の安全・安心にかかわる最近の話題 特集 野生鳥獣肉の安全性確保に関する研究」という特集が組まれていた。狩猟者にとって興味深い内容が幾つかありそうなので、何回かに分けて紹介したいと思う。

門平 睦代 (2015) [野生鳥獣肉の安全性確保に関する研究] 食の安全・安心にかかわる最近の話題 5万人を対象としたウェブアンケート調査, モダンメディア, 61(6), 171-2.

この論説 (以下、(門平 2015))では、ウェブアンケートにより、野生動物由来の肉を食べたことによる健康被害の発生に関する要因を調べている。ウェブアンケートでは、いずれも狩猟鳥獣である哺乳類3分類 (シカ・イノシシ・クマ)と鳥類3分類 (カモ・キジなど・コジュケイなど)について、これまでに食べたことのある動物種とその頻度、誰が調理したのか、調理方法、食べたあと具合が悪くなったか、今後も食べたいか、の5項目を尋ねている。論説のタイトルにあるように回答数は50000で、対象は20歳以上 (本文からすると60代までが中心)の男女 (男性53.6%, 女性46.4%)、都道府県別の居住地は実際の人口比と類似しているとしている。

(門平 2015)の表1に、動物種別の喫茶頻度の生データが載せられているので、これを元にグラフを作成したのが、左図である。これを見ると、「食べたことはない」の割合が、最も低いイノシシでも85%となっており、アンケートに答えた大多数の人は狩猟肉を食べたことが無い (あるいは食べた記憶・認識が無い)と分かる。(門平 2015)の本文中では、「男性の方が女性より2~3倍ほど野生由来肉を食べている傾向」が見られると書かれているが、それにしても低い割合である。

食べたあと具合が悪くなったか、という質問の答えに関して、他の質問項目との関係性を解析したところ、リスク要因として上位にきたのは、「シカを自らで捕獲・調理した」、「カモのタタキ (半生)を食べた」、「イノシシの干し肉を食べた」であり、「有意差のあった要因すべてが、生の肉との接触、または、調理不完全の肉の摂取に関連していた」、としている。

狩猟者としては、肉に火をきちんと通して食べることを、自分が調理する時もそうであるが、他人に提供する時は特に意識し、食中毒の発生低減に寄与していきたい。市場に流通している牛肉や豚肉ほどの品質に持っていくことはできないが、それでもある程度の安全性が保たれていないと、野生肉消費の拡大は難しい。

ちなみに私は狩猟3年目で、これまでにシカ・イノシシ・ハクビシンの肉を合計で数十kg食べているが、イノシシの脂で胃もたれしたことを除くと、特に健康被害を被ってはいない。