なぜかおすばかり

ニホンジカ♂ニホンジカ♂死んでしまっていたニホンジカ♂2015年11月28日から30日にかけて、3日連続でニホンジカ♂が罠にかかった。罠は28日と30日が”しまるくん”、29日が”だらず罠”であった。いずれも角が3又であるため、3歳以上であろうと思われる。

30日に獲れた個体は特に大きく角も立派であったのだが、発見時に死亡していた。お尻の肉が若干齧られていた上、鳥に突かれたのか目玉が半分無くなっていた。肉にできなかったのは残念であるが、それに加えてこれだけ大きいと、内臓を取り出して角を切り落としたくらいでは、非力な私だと引き摺っても移動させるのが困難である。仕方ないので肋のあたりで半分に切断し、前半分と後半分に分けて運んだ。

↑ 一番上の写真と同個体

↑ 2番目の写真と同個体

↑ 2番目の写真と同個体。放血

ていこうできず

罠にかかったニホンジカ♂
 2015/11/20、猟期6日目に最初の獲物であるシカ(♂)が罠にかかった。罠は”げんごろう”の”だらず罠”で、ワイヤーは左前脚の副蹄より下にかかっていた。おそらくワイヤーのかかった足を痛めており立ち上がることもできない状態だったので、楽に放血させることができた。昨年度イノシシが獲れた場所だったので、イノシシを期待して設置した罠だったのであるが、シカがかかってしまったので少し残念である。

 この記事を書いている時点で猟期開始から10日程であるが、昨年度と比べると、ヌカを撒いても減らず足跡も付かず、という感じで反応が少ない気がしている。今年は罠の設置・撤収と捕獲日だけでなく、空ハジキや糠の減りもきちんと記録する体制 (現場に持参するメモ帳を用意しただけだが)で始めたので、今後も記録を続けて来年度以降とデータを比較できるようにしていきたい。ちなみにこのシカがかかった前日には、この罠の付近に撒いた糠で、食べた痕があったと記録されている。この場合、前日に糠を食べた個体が今回獲れたシカだと言うことはできないし、そもそもシカによる食痕かも分からない (現場は足跡が残りにくい場所である)。しかし何らかの動物がこの獣道を通って糠を食べたことは確かそうなので、餌を食べたことが確認された時点で、この獣道が「あらゆる動物が忌避する状態では無い」と結論づけることは可能かもしれない。これは、罠設置時に残る人間の足跡や匂いなどが、獣の通行に著しい悪影響を及ぼすと仮定した場合には、意味のある結論である。

しかにくのぶい

シカ肉の部位について書きたいと思う。

私の周りにいる狩猟者の多くは、獲れたシカを丁寧に解体して肉の一片も無駄にしないように、などという努力はしない。なぜならシカは猟期中に多数手に入るからである。

全日本鹿協会 (商品開発) – [1]
農林水産省/平成26年度 食料・農業・農村白書(平成27年5月26日公表) – [2]

例えば体重50kgのシカをきちんと解体したとすると、[1]によれば雄ジカの正肉歩留まりが41%なので、20.5kgの肉を入手してしまう。これを猟期中に5匹獲ったとすると、合計100kg以上である。日本人1人当たりの平均牛肉消費量は[2]によると年間約6kgであり、豚肉と鶏肉を合わせても30kg程度であることから、100kgが簡単に消費できる量ではないことが分かる。

ちなみに私は昨年度、シカ、イノシシ、ハクビシンで合計約70kgを精肉にした。自分個人で消費する以外に、食事会を開いたり、肉そのものを人に譲渡したりもしたが、未だ消費し尽くすことができず、あと2ヶ月で次の猟期を迎えようとしている。

では私の知る多くの狩猟者はどうしているかというと、「いいとこ取り」である。つまり、価値の高い部位だけ切り取ってあとは埋めてしまうのである。私も狩猟を始めた極初期には、肉をなるべく無駄にしないようにと思って解体していたが、今では「いいとこ取り」が基本である。

この「いいとこ取り」で言う「いいとこ」とは具体的にどこなのか、というのがこの記事で書きたいことである。

肉の部位については、猟師の中でもあーだこーだと議論が起こるが、基本的に各部位の価値は次のような要素によって決定される。

食味

塊の大きさ
切り出しと精肉へのしやすさ
調理のしやすさ

そもそも部位の分け方が人によって異なるのだが、私が精肉にする部位での分け方では次のようになる。

ネック
背ロース
ヒレ
モモ
カタ
スジ
ハツ
タン

これを、1頭から取れる量で並べると、[2]も参考にしつつ、概ね次のようになると思う。なお、()はほぼ差が無いものとして表記する。

モモ → カタ → スジ → 背ロース → ネック → (ハツ → ヒレ) → タン

次に、簡易な方法で調理したときの食味で良い方から並べると、個人の好みもあるだろうが、私は次のような順だと思う。

タン → ヒレ → 背ロース → モモ → ハツ → (カタ → ネック → スジ)

さらに、切り出しと精肉へのしやすさでは次のような順になると思う。

背ロース → (モモ → カタ → ネック) → ハツ → ヒレ → スジ → タン

上記の評価順を念頭に起きつつ、各部位の評価をそれぞれ書いてみる。

・背ロースは、(タンやヒレよりも)量が取れ、食味が良く、肉を取り出すのが最も容易である。
・モモは、取れる量が最も多く、取り出しも容易で、食味も悪くない。付け加えるなら塊の大きさも各部位中最大であるのでステーキに向く。
・タンとヒレは、食味が非常に良いが、取れる量が少なく、また取り出しにも手間がかかる。なお、タンは下処理が多少面倒。
・カタとネックはそれなりに量が取れ、取り出しも容易であるが、食味は優れていない。
・スジは量が取れるが、精肉および調理が面倒である。なお、食味順では最後尾にしたが、調理方法によっては他の部位に引けを取らない。
・ハツは内臓類の中では最も扱いやすい。普通の肉ばかりでは飽きてくるので、アクセント的な価値も含む。

という訳で、シカを1頭捕獲したときに私が取り出す優先順位としては、

背ロース → モモ → ハツ → ヒレ → タン

が上位にくる。もし、自宅の冷凍庫がモモ肉で埋まっていたら、モモは割愛してヒレとハツを回収し、時間があればタンも取り出すという選択をするかも知れない。

まぁ狩猟者にとっては、色々な部位の調理を試みつつ、自分が価値のあると思う部位を決めていけばいい話なので、上記のような説明は必要ないかもしれないが、狩猟者以外でシカ肉に興味のあると言う人に参考にして欲しい。例えば、ヒレやタンが美味であると聞いたからといって、知り合いの狩猟者にヒレとタンをくれるように頼んでも、1頭から取れる量はわずかだし、取り出しには手間がかかる。もし複数人で狩猟をしている人であれば、肉分配の際にそのような希少部位を確保するのは困難であるかも知れない。一方、背ロースやモモは取り出しが容易なので、肉を多く手に入れている狩猟者であれば、負担を感じずに渡してくれる可能性が高い。塊が大きく簡単な方法で調理しても美味しく食べやすい。