しかのははなきこ

くくり罠にかかったニホンジカ♀主蹄と副蹄の間にワイヤーがかかっている2016/07/01にニホンジカ♀が捕獲された。罠は”しまるくん”で、ワイヤーは左前脚の主蹄と副蹄の間にかかっていた。4日前と同じエリアであるが、別の獣道である。

恐らく3年目と思われる個体で、最初に見つけた時はこの個体の子供と思われる子鹿が側にいたが、私が近づくと逃げてしまった。捕獲された♀親は出産+授乳の影響かげっそりと痩せた感じであった。

シカの子育てについてネットで軽く調べていたら、興味深い記事を見つけた。

ニホンジカの誤認保護 | 京都市動物園 – [1]

[1]には、誤認捕獲が発生するメカニズムについて、
生まれてしばらくの間,ニホンジカの幼獣は母親に茂みなどに隠され,地面でじっと伏せて母親が授乳に来るのを待ちます。(~省略~)地面に伏せている幼獣を見つけた人が「お母さんとはぐれたんじゃないか・・・」「うずくまって可哀そう」「このままじゃ死んじゃう」と思って,連れ去ってしまい,誤認保護が起こります。
と説明し、
もし,ニホンジカの出産期時である5~7月に(おもに6月頃)ニホンジカの幼獣が座り込んでいる場面に遭遇したら,親が少し離れているだけの可能性があります。見つけても,そっとしておきましょう。
と書いている。

今回、私が捕獲した個体の側にいた子鹿は、既に親の後を付いて歩いていたので、授乳を待つだけの発育段階ではないが、このような個体が親を失った場合、どうなるのだろうか。国内のニホンジカには、野犬と熊類 (人里近くの森林では稀)を除くと目立った外敵は人間くらいしかいないので、捕食のリスクはそれほど高くないと思われるが、栄養面で母乳に依存する割合が高い段階で母親を失えば、高い確率で死亡すると考えられる。ただし、他の哺乳類の例などを考えると、群れに合流して、母親以外の♀個体から授乳を受けられるという可能性も無いではない。逃げた子鹿の運命やいかに。

ここからここから

2016/06/27にニホンジカ♀が罠にかかっていた。共同で有害鳥獣捕獲をやっている場所で、私の罠ではないため詳細は書けないが、笠松式と呼ばれるタイプの罠である。ワイヤーは左後足にかかっていた。

現場は鳥獣保護区であるが、わな猟のみ有害鳥獣捕獲 (ニホンジカ)の許可が降りている。個体数密度が非常に高いようで、見廻りに行く度に2,3匹、多いときは5,6匹のシカを目撃していたため、すぐに掛かるとは思っていたが、設置後1週間でまずは1匹目が獲れた。

鳥獣保護区で有害捕獲を行う場合、シカの密度が高く警戒心も少ないので、最初の1匹を獲るのは割とすぐなイメージがあるが、問題はここからである。特定のエリアでのみ許可が出ているので、罠を設置できる箇所が少なく、2匹目、3匹目を獲るのが難しいのだ。

きょうかいせん

野生動物に関わるニュースを観ていて、例えば人間が山の中で熊に襲われた事件なんかだと、「熊のテリトリーに入った人間の方が悪い」とか「山は熊の住処なのだから自業自得」、というような意見を持っている人が一定数いるようだ。ネットニュースなどに付けられるコメントではこれらが大多数を占める。

私も、山に入るということには熊に限らず様々なリスクがあって、どんな理由があって山に入るとしても、そのリスクを負う覚悟が必要だとは思うが、被害に遭った人が他人から責められたり、馬鹿にされたりするのは間違っていると思う。

前述のようなコメントをする人に悪意があるとは思わないが、私に言わせれば、ナチュラリストを気取った無知な発言である。

まずはっきり言えるのは、熊にしろ猪にしろ、奴等の生息域に明確な境界線など存在しない、ということ。都市部に住んでいる人にはイメージが無いのかも知れないが、ここから先は山で熊が出るから危険、ここより手前は人間の住処で100%安全、などという状況は存在しない。動物園のように堀や鉄柵で動物と人が分けられている様を想定して、山と村との関係を語られてはたまったものではない。

次に、考えてみて欲しいが、もし「この辺りより奥だとクマが結構出るけど、これより手前では滅多に出ない」という情報があったとして、その情報はどうやって得られたのだろうか。クマの全個体にGPS発信機が付いているとか、山間にクマなく監視カメラが設置されているわけでないのは小学生でも分かると思う。これは山に入る人間が、クマの姿なり痕跡なりを確認しているからに他ならない。動物の個体数や行動範囲は常に変化しているので、山に入る人が居続けなければ、危険性の高さを評価するための情報は得られない。

加えて、山は動物が棲息するための場所、という認識がそもそも正しくない (全ての人が納得するわけではない)。日本において森林の約4割は植林地と言われている。植林地とはつまり人間が生産活動を行う場である。残りの天然林でも、薪炭利用こそ少なくなったが、きのこ類の栽培などに森林が利用されている。人が住んでいる集落の周りにある山林は、ほぼ人間の手が入っていると言っても過言ではない。タケノコ、山菜、きのこ類は、都市部に住んでいる人間が考えている以上に、重要な山の産物である。

人間の居住区に近い山林で、人間が生産・採集を行い続けるためには、山に入り続けることが必要である。動物たちとの戦線を押し上げて行かないと、逆に山林に隣接する畑や市街地まで、動物たちが攻め上って来てしまう。この前線付近では、人間と動物の衝突がこれからも続くだろう。人間が山に入る必要があり、実際にそうする以上、この戦いは避けて通れない。意識のあるなしに関わらず、人間の活動範囲を守るため、前線で戦っている人々に対し、私は感謝したい。

私は罠猟師であるが、自分が罠を仕掛けているエリアが猪や鹿との最前線で、すぐ後ろには集落と田畑、という場所もある。こういった場所では、たとえ動物が罠にかからなくても、見廻りのため定期的に山へ入ることは、前線の押し上げに効果があると考えている。