ぴょんぴょんと

2018/11/26にニホンジカ♀1頭を捕獲した。罠は”しまるくんL”で、ワイヤーは右前脚の主蹄と副蹄の間に掛かっていた。

発見したときは普通に立っていたのだが、1時間後に軽トラで来たときには脚を挫いて立てなくなってしまっていた。この個体のように、ワイヤーが小径木に巻き付いて短くなった状態で脚を挫き、身動きとれず寝そべった状態で止め刺しをすることになる個体は一定の割合でいる。私の経験則では、獣が立っている状態で止め刺しできる方が、血抜きを上手に行え、なおかつ肉の痛みも少ないので、理想的である。

獣が脚を挫かないようにするには、まずは罠を設置する場所として、急な斜面を避ける、近くにワイヤーの巻き付きそうなものが無い所を選ぶ、といった対策が考えられるが、そのような都合の良い獣道が常に見つかるとは限らない。この現場も斜面が急な方であり、近くにワイヤーの巻き付きそうなものがあるのも分かってはいたが、他の条件が良かったので、ここを設置場所に選んでいた。

設置場所の条件以外では、早めに罠の見廻りをする、そして発見時に興奮させない (興奮すると飛び跳ねて逃げようとするので怪我をしやすいと思われる)のが良いと考えられる。獲物が掛かっているのを発見したら、人間の方はこころぴょんぴょんであるが、罠に掛かった動物にはぴょんぴょんさせないのが良い。

まあまあおおきい

2018/11/20にニホンジカ♂を2頭捕獲した。写真の個体は罠が”だらずわな”で、ワイヤーは右前脚の主蹄と副蹄の間に掛かっていた。もう1頭は檻で捕獲したが、写真はない。

この個体は3段角の中では小さい方であるが、私にとって久しぶりの3段角個体である。同じ猟友会支部のベテラン猟師は、ここ何年かでシカが小型化している、と言っていたが、私もその傾向は感じていた。シカが小型化している、という表現はあまり生物学的に適当でなさそうなので、正確に述べると、小型のシカが捕獲される割合が高まっている、ということである。これは、シカの成長が悪くなっているというよりは、若齢の個体が捕獲される割合が高まっている結果と考えられる。齢別の死亡率(捕獲される率)に年変動が無いと仮定すると、これはつまりシカ個体群内の平均齢も下がっているということになり、死亡率が高まっていることを意味する。

ぎょうむぼうがい

2018/11/1と2018/11/13に、有害鳥獣捕獲のため設置していた檻にかかったニホンジカを、何者かによって逃されるという被害が生じた。

2回とも同じ檻で逃されてしまったのであるが、その顛末を記す。

11/1は、私が午後に檻の確認に行くと、写真上のように扉が落ちていて、中に動物はいなかった。

檻の場合、上から落ちてくる枝葉や、中の餌を食べに来る小鳥などによって、仕掛けが作動し扉が落ちることもあるが、檻の中の糠が無くなっており、踏み荒らした跡もあったので、大型動物が入って扉が落ちたはずである。

私が不思議に思っていると、近くで作業していた人から、午前中に見たときは小さいシカが入っていた、との証言を得る。

この檻は、一旦落ちた扉が動物の力で持ち上げられることがないよう、ロックがかかる仕組みになっている (写真下参照)ので、人間以外が扉を開けるのは不可能である。

私は最初、同業者が何らかの理由で檻に入ったシカを殺して持ち去ったのではないかと考えたが、血の跡や引き摺った跡がない上、この場所に車で入るには施錠された門を通らないといけないため、その可能性は低いという結論に達した。

持ち去られたのではないとすると、逃された、ということになる。

証言によれば、檻に入っていたのは小さいシカだったということなので、角が無い個体であったとすると、人が入口正面に立って扉を持ち上げても、逃がす際に怪我をする心配はあまりない。

一応、この檻を置いている場所の施設管理者や、共に有害鳥獣捕獲を行っている人に報告・相談したが、この日は「まぁこんなこともあるか」ぐらいの気持ちで諦めることにした。

11/13は、私が早朝に同じ檻を見に行くと、子ジカが入っているのを発見した。

しかし私はこの日、朝から昼過ぎまで仕事が入っていたため、仕事が終わってからシカを回収することにし、子ジカが入っているのを確認しただけでその場を立ち去った。

午後になって仕事が終わったので、共猟者と電話で待ち合わせ、一緒に檻に入ったシカを回収しに行ったのであるが、着いてみるとなんと檻の中はもぬけの殻。

血の跡や引き摺った跡が無いのは前回と同じ、またしても逃されてしまったのだ。

同じ場所、同じ檻で短期間に2度も逃された上、今回は檻に入っていたシカを自分の目で確認している分、逃されたのが腹立たしい。

シカを始めとする野生動物は、無主物 (所有者のない動産)であると一般に理解されるが、

民法 第二百三十九条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。

とあるので、罠に野生のシカが掛かった場合、そのシカに対する所有権は、罠の設置者が取得する、と考えられる。

罠に掛かったシカを、罠の設置者以外が持ち去ったとすると、これは窃盗罪が適用できると思うのだが、逃したとなると窃取に当たらず、窃盗罪にはならないかも知れない。

そういった場合でも、業務妨害罪という便利な罪状があり、このうち威力を用いる場合は威力業務妨害罪が問える、と考えられる。この罪状には”三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金”が処される。

有害鳥獣捕獲は”業務”として十分成り立つだろうし、檻の扉をあけて中のシカを逃がす行為は”威力”の行使と判断できる。

従事者である私からすれば、シカ2頭を逃されたことにより、捕獲奨励金として支払われる16,000円〜44,000円 (幼獣か成獣かで変動)の損失を被っており、シカが檻に捕らえられるまでに費やした時間と労力、それにエサ代やガソリン代などの経費が無駄にされたわけである。

逃した人はおそらく、小さなシカが檻に入っているのを見て可哀想に思い、逃して”あげた”、殺生をする野蛮な猟師から救って”やった”、ぐらいに思っているのだろうが、逃された狩猟者 (有害鳥獣捕獲の従事者)と、食害に苦しんで捕獲を依頼している農業従事者からすれば、酷い話である。

しかし犯人 (おそらく2回は同一人物)は、単なる好奇心や出来心でなく、それなりに強い意志を持って、檻に入ったシカを逃がすという行為に及んでいると予想される。

そういった相手には、近くにメッセージを書いた紙をぶら下げて、シカを逃さないようにお願い、あるいは警告するといった方法では効果がないと私は考えたので、もっと抑止力を発揮すると思われる2つの対策を行うことにした。

1つは、自動撮影カメラの設置である。

動物の生息調査に用いられる自動撮影カメラを檻の近くに設置し、檻の扉を開けようとすれば顔が写るように設置した。蓋は勝手に開けられて記録媒体や電池を抜かれることのないよう南京錠で固定、本体も太めの幹に回したワイヤーと南京錠で固定した。これならそう簡単には自動撮影カメラを持ち去ることはできない。

自動撮影カメラは目立つ位置に設置したので、開けるところを実際に撮影し警察に突き出してやりたいというよりは、犯人が檻を開ける間にカメラに気付くことで、抑止ができればよいと考えている。

2つ目は、捕獲発見時に檻の扉を南京錠とワイヤーで固定することである。

私は原付きで罠を見廻りし、捕獲があった場合は軽トラで回収する、というパターンが多いので、原付きで見廻って発見したあと、軽トラで戻ってくる前に逃される可能性がある。そこで、原付での見廻り時に、檻の扉を固定できるワイヤーと南京錠のセットを持ち歩き、捕獲を認めた場合はそれらで檻の扉と本体を留め、南京錠を開けなければ檻の扉を開けることができないようにするのである。

この対策は、逃される前に檻に入った獲物を確認しなければ実行できないが、 11/13の場合のように、自ら捕獲を確認した個体を逃される、という事態は避けられる。また、もし犯人が檻の本体と扉を固定しているワイヤーを切るか南京錠を破壊するなどした場合、器物損壊罪も適用できることになり罪が重くなると考えられる。

とりあえずこの2つの対策を行って様子を見るが、同様の事態や何らかの進展があった場合には、随時このBlogに書こうと思う。