たべたことない

モダンメディアという学術情報誌の2015年6月号で、「食の安全・安心にかかわる最近の話題 特集 野生鳥獣肉の安全性確保に関する研究」という特集が組まれていた。狩猟者にとって興味深い内容が幾つかありそうなので、何回かに分けて紹介したいと思う。

門平 睦代 (2015) [野生鳥獣肉の安全性確保に関する研究] 食の安全・安心にかかわる最近の話題 5万人を対象としたウェブアンケート調査, モダンメディア, 61(6), 171-2.

この論説 (以下、(門平 2015))では、ウェブアンケートにより、野生動物由来の肉を食べたことによる健康被害の発生に関する要因を調べている。ウェブアンケートでは、いずれも狩猟鳥獣である哺乳類3分類 (シカ・イノシシ・クマ)と鳥類3分類 (カモ・キジなど・コジュケイなど)について、これまでに食べたことのある動物種とその頻度、誰が調理したのか、調理方法、食べたあと具合が悪くなったか、今後も食べたいか、の5項目を尋ねている。論説のタイトルにあるように回答数は50000で、対象は20歳以上 (本文からすると60代までが中心)の男女 (男性53.6%, 女性46.4%)、都道府県別の居住地は実際の人口比と類似しているとしている。

(門平 2015)の表1に、動物種別の喫茶頻度の生データが載せられているので、これを元にグラフを作成したのが、左図である。これを見ると、「食べたことはない」の割合が、最も低いイノシシでも85%となっており、アンケートに答えた大多数の人は狩猟肉を食べたことが無い (あるいは食べた記憶・認識が無い)と分かる。(門平 2015)の本文中では、「男性の方が女性より2~3倍ほど野生由来肉を食べている傾向」が見られると書かれているが、それにしても低い割合である。

食べたあと具合が悪くなったか、という質問の答えに関して、他の質問項目との関係性を解析したところ、リスク要因として上位にきたのは、「シカを自らで捕獲・調理した」、「カモのタタキ (半生)を食べた」、「イノシシの干し肉を食べた」であり、「有意差のあった要因すべてが、生の肉との接触、または、調理不完全の肉の摂取に関連していた」、としている。

狩猟者としては、肉に火をきちんと通して食べることを、自分が調理する時もそうであるが、他人に提供する時は特に意識し、食中毒の発生低減に寄与していきたい。市場に流通している牛肉や豚肉ほどの品質に持っていくことはできないが、それでもある程度の安全性が保たれていないと、野生肉消費の拡大は難しい。

ちなみに私は狩猟3年目で、これまでにシカ・イノシシ・ハクビシンの肉を合計で数十kg食べているが、イノシシの脂で胃もたれしたことを除くと、特に健康被害を被ってはいない。

うれしいごさん

2016年2月28日にニホンイノシシの♂を捕獲した。精肉が約40kg取れたので、体重は80kg以上あると思われる。罠は”しまるくん”で、ワイヤーは右足の主蹄の上に掛かっていた。

今年度の猟期は最初の1ヶ月こそ捕獲が多く順調であったが、その後はさっぱりで、このイノシシが来るまで1ヶ月以上、シカも含めて捕獲が無かった。京都市でシカの捕獲奨励金が支給されるのは今年度の場合、2月末日までだったので、3月に入ったら罠を回収しようと思っていたところだった。結局シカの捕獲は増えなかったのであるが、シカで4000円もらうよりも、イノシシの方が私にとっては価値がある。

大型のイノシシを解体するのは時間の掛かる作業なので、お世話になっている師匠に加え、大体いつも1,2名の先輩猟師と捌くのであるが、このイノシシを見た老齢の猟師が開口一番に、「遠くから来た奴やな」と言った。新米の私にはそう判断できる理由が分からなかったので尋ねてみると、蹄が磨り減っているから、という答えであった。言われてみると確かに、これまで獲ってきた個体と比べて主蹄が短く磨り減っている気がする。イノシシの♂成獣は今の時期、♀を求めて山から山へ移動すると言われているので、この個体も駆け巡っていたとすれば、その分蹄が磨り減ったということは考えられる。もっとも、蹄の減り具合はイノシシが活動する場所の地質や地形に大きく影響されるであろうし、どういった経年変化があるかも分からない。

めじるしだいじ

山の中で位置を記憶するというのは、そう簡単なことではない。しかし足括り罠の設置場所については、「この獣道のこの位置に設置して、ワイヤーはこの木に結ぶ」といった具合に、正確な場所を覚えておく必要がある。

また罠の見廻り時には、少し離れたところから動物が罠にかかっていないか確認することが多々あるが、あまり特徴的な地形でなかったり、植物が生い茂っていたりすると、遠目からでは罠の位置が分かりにくいことがある。

そんな時のため、私は標識テープを使って目印を付けている。この標識テープは、樹木テープあるいはプロットテープなどとも呼ばれるもので、野外調査で広く用いられている。普通のビニールテープと異なり粘着性は無く、手で引きちぎれるのが特徴である。また伸縮性があるので、木の枝に結ぶのが容易である。私は大学の研究室で1度使われたテープを拝借して再利用しているので、どこのメーカーのテープかははっきりしないが、いくつかのサイトを見てみると、幅30mmのテープが50m1巻で500円程度と、それほど高価な品ではない。

このテープを、罠の近くにある木の枝に結んで垂らしておくことで、目印にすることができる。また必要に応じて、罠の位置まで行くときに林道から入る場所にも標を付けておくと迷わない。

ちなみに、全ての標識テープがそうというわけではないが、私が使っているものは生分解性の素材で出来ているため、森林内のゴミを増やすという心配は少ない。