こうちけんすごい

鳥獣被害対策のためのマニュアルが色々と作成されており、ネット上で閲覧できるものも幾つかあるが、高知県が発行している、

わな猟シカ捕獲マニュアル | 高知県庁ホームページ

の出来が素晴らしい。くくり罠を用いた猟についてだけでも、17ページに渡って写真やイラストをふんだんに用い解説していて、非常に分かりやすい。しかも内容が実践的で、かなり深いことも書いてある。くくり罠猟を始めようと思っている人、始めたばかりの人に役立つと思う。

特に興味深いのは、「名人の技に学ぶ」のコーナーで、5人の名人が用いている技法について、1人につき1ページを割いて紹介しているところだ。以下に5人の特徴を表にまとめてみる。

くくり罠猟歴 バネの特徴と動作の向き 作動方式 備考
28年 引きバネ縦引きタイプ 踏み込み式/蹴糸式 2つの輪が同時に締まる仕組み
17年 松葉式バネ縦引きタイプ 踏み込み式
33年 松葉式バネ縦引きタイプ 踏み込み式
23年 松葉式バネ縦引きタイプ 踏み込み式 ガイドに塩ビ管使用
1年 押しバネ跳ね上げタイプ 踏み込み式 銃猟歴40年

面白いことに、くくり罠猟歴1年の人を除く4人は、縦引きタイプを使用しており、うち3人は深めの穴を掘る必要がある、「松葉式バネ縦引きタイプ」+「踏み込み式」の組み合わせだ (くくり罠猟歴28年の人は踏み込み式も用いているようだが、紙面で紹介されているのは蹴糸式に見える)。最近は、穴を深く掘る必要が無い跳ね上げタイプ (笠松式)を使う人も多く、特に行政等で採用される傾向が強いようだが (高知県も押しバネ跳ね上げタイプを配布している)、縦引きにこだわる人はまだまだ居るとの印象を受けた。

私の師匠と私の使っている罠 (だらずわな)と設置の方法は、上記の名人達と多少の違いはあれど「松葉式バネ縦引きタイプ」+「踏み込み式」であり、私としてもこの方式には価値を感じている。私の知る限り、跳ね上げタイプ (笠松式)は完全に地中に埋めて隠すのが難しく、埋めたら埋めたで括り位置が下がってしまう。罠の方式による差異については、おいおい詳細な記事を書きたいと思っている。

しかのははなきこ

くくり罠にかかったニホンジカ♀主蹄と副蹄の間にワイヤーがかかっている2016/07/01にニホンジカ♀が捕獲された。罠は”しまるくん”で、ワイヤーは左前脚の主蹄と副蹄の間にかかっていた。4日前と同じエリアであるが、別の獣道である。

恐らく3年目と思われる個体で、最初に見つけた時はこの個体の子供と思われる子鹿が側にいたが、私が近づくと逃げてしまった。捕獲された♀親は出産+授乳の影響かげっそりと痩せた感じであった。

シカの子育てについてネットで軽く調べていたら、興味深い記事を見つけた。

ニホンジカの誤認保護 | 京都市動物園 – [1]

[1]には、誤認捕獲が発生するメカニズムについて、
生まれてしばらくの間,ニホンジカの幼獣は母親に茂みなどに隠され,地面でじっと伏せて母親が授乳に来るのを待ちます。(~省略~)地面に伏せている幼獣を見つけた人が「お母さんとはぐれたんじゃないか・・・」「うずくまって可哀そう」「このままじゃ死んじゃう」と思って,連れ去ってしまい,誤認保護が起こります。
と説明し、
もし,ニホンジカの出産期時である5~7月に(おもに6月頃)ニホンジカの幼獣が座り込んでいる場面に遭遇したら,親が少し離れているだけの可能性があります。見つけても,そっとしておきましょう。
と書いている。

今回、私が捕獲した個体の側にいた子鹿は、既に親の後を付いて歩いていたので、授乳を待つだけの発育段階ではないが、このような個体が親を失った場合、どうなるのだろうか。国内のニホンジカには、野犬と熊類 (人里近くの森林では稀)を除くと目立った外敵は人間くらいしかいないので、捕食のリスクはそれほど高くないと思われるが、栄養面で母乳に依存する割合が高い段階で母親を失えば、高い確率で死亡すると考えられる。ただし、他の哺乳類の例などを考えると、群れに合流して、母親以外の♀個体から授乳を受けられるという可能性も無いではない。逃げた子鹿の運命やいかに。

ここからここから

2016/06/27にニホンジカ♀が罠にかかっていた。共同で有害鳥獣捕獲をやっている場所で、私の罠ではないため詳細は書けないが、笠松式と呼ばれるタイプの罠である。ワイヤーは左後足にかかっていた。

現場は鳥獣保護区であるが、わな猟のみ有害鳥獣捕獲 (ニホンジカ)の許可が降りている。個体数密度が非常に高いようで、見廻りに行く度に2,3匹、多いときは5,6匹のシカを目撃していたため、すぐに掛かるとは思っていたが、設置後1週間でまずは1匹目が獲れた。

鳥獣保護区で有害捕獲を行う場合、シカの密度が高く警戒心も少ないので、最初の1匹を獲るのは割とすぐなイメージがあるが、問題はここからである。特定のエリアでのみ許可が出ているので、罠を設置できる箇所が少なく、2匹目、3匹目を獲るのが難しいのだ。