わなのちょうせい

しまるくん オーエスピー商会が販売している括り罠で、「しまるくん」というのがある。標準セット価格が4,980円で、後は標識さえあれば設置できるという非常にお手軽な商品だ。直径12cm規制も遵守しているし (一部規制解除区域のために、径の大きいパイプも選択できる)、締め付け防止金具もちゃんと付いている。私は昨シーズン、初の狩猟でこの「しまるくん」を5つ買い、イノシシを2頭捕獲。また今年の有害捕獲では同じ罠を使ってシカを2頭捕獲している。構造もシンプルなので良いと思っている。

 だがこの「しまるくん」には欠点がある。縦引きでセットすると、写真のように踏み板の付いた内側のパイプが斜めに浮き上がってしまうのだ。この点については販売元も認識していたようで、今年の夏にこの罠の補給部品として「ねじりバネ片側L」というものを販売し始めた。カタログを見ると、これはバネの先端形状を工夫することで、内側パイプが斜めに浮き上がるのを防いでいるらしい。

 【新製品】ねじりバネ片側Lの商品について: オーエスピー商会の社員ブログ – [1]

 [1]では、

通常のしまるくんを縦に使う場合、バネを傾けるように折って埋める必要がありました。

と書かれている通り、ノーマルの「しまるくん」をセットするにはバネの方を持ち上げてやるという解決策がある。斜面を横切る獣道にセットする場合は、それも良いだろうと思う。しかしバネを傾けて埋めるのが望ましくない場合もあるので、私はこの罠を購入してすぐ次のような調整を行った。

しまるくん内側パイプ 「しまるくん」の内側パイプには、元々ネジが3本x2の計6本使われている。このネジは踏み板を固定するものであると同時に、外側パイプとの間に隙間を保つという役割がある (と思う)。外側パイプと内側パイプの間に隙間があることは、罠の作動をスムーズにすることに貢献している。しかし隙間がありすぎると、内側パイプがバネの力で斜めに浮き上がるのを許してしまうことにもなる。

しまるくん内側パイプのネジ そこで、元々付いているネジの下に、左写真のようにさらに3本のネジを追加してやる。これは片側だけでよい。この3本ネジを追加した側を、バネとは反対側にしてセットする。

しまるくん調整後 すると、内側パイプと外側パイプの間の隙間に、追加した3本のネジの頭が挟まり、遊びが少なくなる。これにより、縦引きでセットしても、内側パイプが斜めに持ち上がらなくなるのである。この調整により、罠が作動しにくくなるといったことは特に無いと思う。ただ、これを実際に野外でセットした場合、内側のパイプが斜めに持ち上がらない半面、バネの方が斜めに持ち上がる傾向があるので、、L字型あるいはJ字型の金具を使いバネを地面に固定するのが良いと思う。

さくごほかくぽん

ホンドタヌキ 有害捕獲のため設置していた罠にタヌキがかかっていると連絡を受け向かったところ、確かにホンドタヌキ (Nyctereutes procyonoides viverrinus)が罠にかかっていた。

 現場は鳥獣保護区であるが、農業被害軽減のためニホンジカ捕獲の許可が降りており、計4つの足括り罠を設置していた。ホンドタヌキは狩猟鳥獣ではあるものの、私が受けている許可において有害捕獲の対象ではないため、この場合は錯誤捕獲となる。

 罠猟における錯誤捕獲とは、猟期であれば非狩猟鳥獣 (ニホンザル、カモシカ等)、および罠で捕獲することが許可されていない狩猟鳥獣 (ツキノワグマ、ヒグマ、鳥類全般)、有害捕獲では指定された種以外の鳥獣、を捕獲してしまうことを言う。

 錯誤捕獲は動物愛護や環境保全の観点から問題であり、狩猟者からしても放獣の手間や罠の破損を考えると避けたいものである。この点について、中には罠猟そのものを否定する声や、使用できる罠の制限をより厳しくすることを求める向きもあるが、これまでにも行政により幾つかの対策が講じられている。トラバサミは錯誤捕獲が生じ易くまた捕獲時に鳥獣に与えるダメージが大きいとして法改正により使用が禁止されている。足括り罠における輪の直径が12cm以下と定められたのもクマ類の錯誤捕獲を防止する目的である。また足括り罠で締め付け防止金具の装着が必須となっているのは、イエイヌ等の非狩猟鳥獣がかかったときに放獣を容易にし傷を軽減する目的がある。しかしながら、やはり錯誤捕獲を完全に避けることは困難である。足括り罠を使う以上、輪の直径を12cm以下にしても子熊ならかかるだろうし、カモシカを避けてニホンジカだけを捕獲するなど無理である。ましてや今回のようにタヌキやアナグマの棲息が見込まれる区域でニホンジカだけを選択的に捕獲するというのは不可能だ。勿論、溜糞や巣穴等、明らかに対象外の獣が頻繁に利用する獣道であることを示すサインがあれば、その付近に罠を設置することは避けたいと思うが、現行の法制度下、また有害鳥獣捕獲計画下では、ある程度の錯誤捕獲が発生してしまうということは仕方ない。

罠にかかったホンドタヌキ 今回、ホンドタヌキがかかってしまった罠は、捩りばねを使用した足括り罠で、輪の直径は12cm、ワイヤーは直径4mm、よりもどし及び締め付け防止金具を装着しており、ニホンジカを対象としたものとして適法な罠である。写真では分かりにくいがワイヤーは左前足の先端にかかっていた。もう1人の従事者が布と棒を用いて押さえつけている間に、私がワイヤーを緩めて外し放獣した。罠による怪我は比較的軽度で、解き放たれたタヌキは一目散に逃げて行った。

 「ホンドタヌキ」で画像検索すると、可愛らしい表情の写真ばかり出てくるが、冒頭の写真で分かる通り、罠にかかったタヌキは恐ろしい顔をしていた。まぁ罠にかけてしまったこちらの責任なのだが、私の中でタヌキに対するイメージが随分と変わってしまった。

しかのあしきり

ニホンジカが足切りして逃げた跡

 前回 (「にまんにせんえん | 狩場の馬鹿力」)、ニホンジカがかかった場所のすぐ近くでまた罠が作動していた。しかし空ハジキではなく、足の先端が残されていた。足切りである。

 最初の写真で、赤丸で囲った辺りが罠を設置していた場所 (足を踏み入れると作動する部分)、緑が罠の根元を括り付けていた木、そして青が作動した後、引き出されたバネ部分と残されたニホンジカの足である。

故有事: シカの前足と後足の蹄 Cloven-hoofs of sikadeer’s fore & hind legs – [1]
ニホンジカの被害防止パンフレット (兵庫県森林動物センター) – [2]

 [1]によると、シカは前足の方が後足より大きいが、差は僅かである ([2]では「大きさはほぼ同じ」と書かれている)。私には、残されたニホンジカの足が前足のものか後足のものかは区別できなかった。

 私が師匠から聞いた話では、足切りされるのは罠が後足にかかったときが多いらしい。前足にワイヤーがかかった状態では、獲物が助走をつけて引っ張ろうにも、前足がガクッとなって躓くためである (本当かどうかは分からない)。この助走をつけさせないために、ワイヤーはなるべく短くする (余った部分は木に巻きつける等)ことも教わった。ちなみに、罠がかかるのは圧倒的に前足が多いらしい。実際、私がこれまで捕獲した計3頭のニホンイノシシ・ニホンジカも、全て罠は前足にかかっていた。これは、奴等が前進を基本とし、なおかつ歩くときは前足で踏んだところを後足も踏むようにしていることに起因する。ただし坂道等の条件により、後足が前足で踏んでいないところを踏むようなことがあると、罠は後足にかかる。

足切りされて残ったニホンジカの足

 足切りへの対策としては、ワイヤーの長さを短くする (今回は大分短い方である)ことや、見廻りの頻度を上げる (現在は1日1回。罠の周囲が大分荒れているので、一定時間はその場にいたと思われる)以外に、ワイヤーの途中に丈夫なゴムチューブ等を取り付ける方法がある。これは、釣りで使われるショックリーダーのようなものである。今後も足切れが繰り返し生じる場合は検討したいと思う。

 今回はシカということで危険性は比較的少ないと思われるが、イノシシの場合には罠にかかって興奮した状態で足切りにより解き放たれると、人間に害を及ぼす危険性が高まることも考えらる。また、足の先端が無い動物が人目に触れると、猟に対して悪感情を持たれることもあるだろう。それに第一、こちらの労力的にも足切りされるのは痛手である。私はまだ経験が浅いので、自分の狩猟方法でこういった事態がどれほどの頻度で発生するのか分からないが、今後も記録・観察をしっかりし、対策を考えて行きたい。