しゅりょうにく

狩猟で得た肉の価値に関する基本的な考え方について書きたいと思う。

狩猟者でない人に、私が狩猟を行っていることを話すと、多くの場合、これまでにシカやイノシシの肉を食べたことがあるかないか、そして食べたことがある人であれば、それが美味しかったか不味かったか、という話になる。食べた経験のある人の中には、シカやイノシシの肉に対して好意的な感想を持っている人もいるが、「食べたことあるけど臭くてダメ」とか「癖が強くて食べられたものじゃない」といったことを言う人の方が過半数である (特にイノシシ肉について)。そういった否定的な意見を持つ人たちに私がまず言うのは、狩猟で得た肉の味にはバラツキが大きいということである。

ウシは乳牛と肉牛がいてややこしくなるので、ブタとイノシシの比較で話を進めていこう。

牛・豚の基礎知識 -牛・豚の出荷 – [1]

[1]によると、肉として出荷されるブタは、生後180-190日で屠場へ連れて行かれる。つまり、私達が食べている豚肉の殆どは、生後半年前後の個体である。一方、野生イノシシの捕獲時 (=肉となる時)における齢はバラバラである。その年に生まれたばかりで体重10kg以下の0歳個体もいれば、5歳以上で体重100kg以上の個体もいる。年齢、体重にこれだけの差異があれば、肉の質 (=味)にも差があるのは当然である。一般には若い個体ほど肉が柔らかく臭みも少ないとされている。

また野生イノシシには捕獲時の季節による差異も生じる。飼育されたブタは生育段階に応じて決まった餌が十分に与えられるため、出荷される季節による品質の変動が低く抑えられているが、野外では季節ごとに餌の種類や量が大きく変わるため、イノシシの肉質は季節による変動が大きい。一般には、冬季に捕獲されたものが脂肪が豊富で臭みも少ないとされている。

さらに肉の質に大きな影響を与えるものとして、捕獲方法や捕獲後の処理方法、そして保存方法が挙げられる。狩猟においては、血抜きや解体の手法が統一されておらず、その場の状況においても変化することがある。適切に血抜きされていない肉は、美味しく食べるのが難しくなる。一方の豚肉は、と畜場でマニュアル化された手法により処理・管理されるため、安定した品質を保つことができている。

加えて、これは野生イノシシもブタも同一であるが、肉には部位によって性質が大きく異なる。一概にどの部位が美味しいということはできないが、少なくとも脂肪の割合や肉の固さには、部位によって一定の傾向がある。

以上のように、野生イノシシの肉は、年齢・季節・捕獲や処理の方法が様々であることから、飼育されたブタに比べて肉の質に大きなバラツキがある。また単に「イノシシ肉」と言った場合には、ブタやウシ等の畜産動物と同じく、肉の部位による差異を無視していないか考慮する必要がある。よって、過去にイノシシの肉を食べて「不味い」という感想を持ったからといって、「全てのイノシシ肉は不味い」と結論付けるのは適切ではない。とはいえ、適切に処理したところで(少なくとも私の意見では)不味い個体は確かにあるし、処理が適切でない肉を手に入れてしまう場合も往々にしてあるので、品質の不明なイノシシ肉には手を出さず、より品質が安定した豚肉を食べるという判断は間違っていない。

書く気が起きたら、この続きとして、そもそも肉の味における癖や臭みとはなんなのか、について私の意見を書きたい。

狩猟で得た肉に価値があるのかどうか、というのは狩猟者にとって非常に重要な問題である。もしも「シカやイノシシの肉は不味くて食えたものではない」、あるいはそこまでいかずとも、「牛や豚を食べたほうがずっとマシで、コストを鑑みれば狩猟をして肉を得る意味など全くない」という意見が一般的となってしまえば、「狩猟者というのは動物を殺すことに楽しみを覚える野蛮人である」といった中傷がまかり通ることになるからだ。

すこしおおきく

15021301 2015/02/13にニホンジカ♀が罠にかかっていた。罠は”げんごろう”の”だらずわな”で、ワイヤーは右前脚の副蹄より下にかかっていた。これが通常猟期最後の捕獲となったが、京都ではシカとイノシシを対象とした猟期が約一ヶ月延長されているので、もう少しの期間、猟が可能である。

ニホンジカの胎児 ♀ということで、前回と同様、胎児を取り出してみた。

ニホンジカ胎児の脚部 少し前に獲った雌の胎内にいた胎児と比べると、蹄に色が付いている他、肌もトゥルトゥルだったのが少しゴワゴワとしているように見える。

ニホンジカ胎児のへその緒

あらたなめをつむ

罠にかかったニホンジカ♀ 2015/02/03にニホンジカ♀が罠にかかっていた。罠はオーエスピー商会のしまるくん (12cm)。ワイヤーは右後脚にかかっていた。これまでに私が足括り罠で捕獲した12匹の獣はすべて前脚にワイヤーがかかっており、後脚にかかったのは初である。師匠によると、ワイヤーが後脚にかかった場合、獣はより勢いをつけてワイヤーを引っ張ることができるので、脚切りが生じる可能性が上がるという。同じ理由かどうか分からないが、今回罠にかかったニホンジカは、ワイヤーの端を結わえつけていた直径7〜8cmの木を根っこから引き抜き、逃走を図っていた。そのため私が発見した時点では、罠の設置場所から10m程度離れた場所まで移動していた。ただ、ワイヤーを結わえていた木は3m以上の高さがあり、それを引き摺ったまま林内を移動するということは土台無理で、結果別の木に引っかかって足止めされていた。このように、固定が不安定な状態だったので、私は罠のワイヤーとは別にロープをシカの首にかけ、身動き取れないようにしてから止め刺しを行った。

ニホンジカの胎児1 今回捕獲したのは♀の成獣だったので、お腹の中に胎児がいた。ニホンジカ♀の成獣は毎年1頭ずつ子を生む。今回取り出した胎児は、頭から尾までが約30cm、まだまだ小さい。

ニホンジカの退治2 (脚) しかしながら、シカの特徴はすでにあり、足の蹄も色や硬さは別にして、親と全く同じ形である。

ニホンジカの胎児3 (頭) 耳は後頭部に左右重なって引っ付いている。

ニホンジカの胎児4 (尾) 尾もちゃんとある。

 私はこの胎児を骨格標本作成のため持ち帰ったが、Wikipediaによると鹿の胎児を薬用として用いる風習があったようである (鹿のさご – Wikipedia)。ただ、「鹿のさご」で検索してもWikipediaの記述以外に有用そうな情報は見当たらないので、古い文献にあるのみなのか、不明な点が多い。鹿の駆除という名目からすると、♂を獲るより♀を獲る方が効果があるし、子供が産まれる前に穫れたのは良いことである。胎児の観察もなかなか興味深いものであった。